デスクトップミュージック

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1980年代後半から2000年頃にかけて、ホビーユーザーの間で「デスクトップミュージック」が流行した。
PCからシンセサイザー(楽器)に対して信号を送り、直接演奏をさせるという画期的なものだった。
これの火付け役はローランド社の「ミュージくん」「ミュージ郎」シリーズだ。
ミュージくん」については国立科学博物館の重要科学技術史資料として登録されている。

当時のPCはFM音源と呼ばれるチップから出力される音が一般的だった。主にゲーム用途が主流でお世辞にも良い音では無かった。
「ミュージくん」はプロが使うMIDIと呼ばれる規格を使用して楽器演奏をさせるため、非常に高音質な演奏を楽しめた。今では音楽演奏用としては少々廃れてしまったが、ステージ照明、スモーク、昇降装置の制御等にも細々ではあるが活用されている。
この「ミュージくん」の音質は当時としては非常に衝撃的で、とてもPCが鳴らす音には思えなかった。
LA音源と呼ばれるチップが載っているのだが、自分でオリジナルの音色も作ることもできた。
「ミュージくん」は初心者向けのキットだったが、購入したその日のうちにPCで音楽演奏が楽しめた。ソフトウェアやハードウェアが全て揃っており、別途購入が必要なものがなかった。
実際に音符さえ理解できれば、10分もあれば簡単な音楽を演奏することができた。

この「ミュージくん」のセットであるLA音源の「MT-32」と、MIDIインターフェースの「MPU-PC98」は事実上の業界標準となった。そのためホビーユーザへの普及が始まるとゲームも対応を始めた。
効果音的な部分はFM音源が担当するものの、バックミュージックに関しては「MT-32」用のものが別途用意された。
FM音源の音とMT-32の音の違いは絶大だった。まるで臨場感が違った。おそらく今のゲームとそう音質は変わらなかった。

「ミュージくん」の発売から、しばらくすると音源モジュールを「CM-64」「CM-32L」に変更したミュージ郎シリーズが発売された。「MT-32」の後継で追加でPCM音源等を搭載したものだ。機能的には「MT-32」の完全上位互換で「MT-32」用の音楽は全て違和感なく演奏ができた。
この頃になると物欲はMAXで下位の「ミュージくん:CM-32L」の購入を検討したが、いかんせんお金が弾切れで購入する事ができなかった。ちなみに上位版の「CM-64」入りは定価158,000円だったが飛ぶように売れていたらしい。興味が無い人にとっては音を鳴らすためだけだ。今思うとバブルの時代を感じる。
その後、廉価版の「ミュージ郎Jr.BOARD」というものも発売された。CM-32L相当の音源とMPU-PC98IIを一つのボードにまとめたものだった。
自分はこれで十分だったが、なんとか購入したのは発売から約半年後の事だった

その後、ローランド社はMT-32系列の扱いを突然止め、新たな音色配列フォーマットのGSスタンダードなるものを打ち出し、SC-55という機種を発売した。
一応「MT-32」の互換モードもあったが、音源がそもそも違うため似た音をだすに過ぎなかった。そのため多くのユーザーが戸惑った。
しばらくの間は「MT-32」系列が優勢だったが、後継の「SC-55mkII」が発売されると移行が一気に進んだ。この機種は非常に普及し、その後事実上のスタンダードになった。他社の音源もこの機種に対応した互換モードを持つものもあった。

やはりこの機種も欲しくなったが、もう完全に弾切れである。その後、毎年の様に新機種が発売され幸か不幸か、Windows95が発売されるまで購入する事はなかった。

利用してたPCはとてもWindows3.1やWindows95に対応できなかったので、PC-9821シリーズを新規購入し「Sound Blaster 16」というサウンドボードを購入した。
このボードには「YFM262」というFM音源チップが載っており、最低限のMIDIファイルを再生できたが「ミュージ郎Jr.BOARD」よりは遙かにチープな音だった。
音源の互換性の問題から「ミュージ郎Jr.BOARD」を主とすることはできず、すぐさま「WaveBlasterII」という安価なGM音源モジュールを追加してやり過ごしていた。

するとSC-88なる音源モジュールが発売された。先のSC-55の上位機種である。
MIDIは1ポートあたり16chが制御できたが、2ポート同時使用で32chもの同時演奏を可能にしたもので、通常はS-MPU/PCというMIDIインターフェースを使用して、2ポート同時接続するのが標準だった。

なんとか予算を捻出しようと考えていたところ、SC-88VLという音源モジュールが発売された。SC-88の廉価版でPCから制御する限り不必要なボタンなどを廃止したものだった。
音質などは変わらなかったため、こちらも爆発的に普及したと思う。なんとか手に入れたのだった。
S-MPU/PCの購入も検討したが、もう予算も無いので
PortA:ミュージ郎Jr.BOARD
PortB:Sound Blaster 16
として、2ポートのMIDI端子を用意してSC-88VLを演奏させていた。当時はまだまだ残っていたDOS用のゲームに対応させるためでもあった。
この頃になるとMIDIファイルを配布するような動きが始まった。著作権的な問題で当時の流行曲の配布はみかけなかったが、オリジナル曲の配布はそこそこ見られた。人気曲を集めたフロッピーディスク付の雑誌も発売されていた。
通常では無い接続だったためWindows95からは片方の端子からしか制御できなかったが、DOSのフリーソフトは同時制御が可能だった。
MIDIファイルをダウンロードしては、32chの音楽を楽しんでいたものだった。

その後、2000年位になるとMIDIはすっかり元気をなくしていた。
おそらく趣味としては高額なのと、CPUの処理能力が上がりPCM音源ボードでもリアルタイムで音素を生成できるようになり、外部音源を使用する必要がなくなってきたからであろう。
その後のPCは「Sound Blaster Live! 5.1」というサウンドカードを搭載したが、標準のサウンドフォントで十分な音質を保っていたし、MIDI端子もケーブルを用意すればSC-88VLへ接続ができた。そもそもSC-88VLはRS-232C端子経由でも接続できたので、そちらのケーブルを用意してWindowsXPのサポートが切れるまでは、なんとか使い続けることができた。

今となってはサウンドカードどころか、オンボードのPCMで十分事足りる用になってしまった。
そもそもMIDIが不要になってしまった状況なので、知らない規格な方がほとんどであろう。
あんなに頑張って投資したのに、なんだかちょっと寂しい感じである。

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