今ではファイル圧縮(アーカイブ)と言えばzipが主流になったが、主に1990年代の日本においてはLHAというソフトによる圧縮が一般的だった。
そもそも最近ではファイル圧縮という概念が理解できない方達が増えてきた時代だ。
zipは1985年に「フィル・カッツ」という方が開発されたPKARCというソフトが前身である。システム・エンハンス・アソシエイツ社のARCというソフトの互換版で本家より高速に動作したため本家より普及したが、著作権侵害の訴えにより敗訴してしまった。そこで1989年に一から再開発を行いZIP規格を打ち立てPKZIPというシェアウェアとしてPKWARE社から販売された。これは当時のIBM-PCを中心に瞬く間に普及し現在のzipファイルの祖である。解凍にはPKUNZIPというソフトウェアがあり、こちらはフリーソフトウェアだった。
ちょうど同じ頃、1988年に日本で「吉崎栄泰」という方が、LHAという圧縮ソフトを開発した。凄腕のプログラマーには間違いないのだが本業は医者である。こちらは圧縮も解凍も無料だ。もちろんドキュメント類も日本語だし日本語ファイルの扱いも問題がなかった。当時普及していたPC-9801シリーズを中心に瞬く間に普及した。
ハードディスクが普及し始めると、ほぼ必ずと言って良いほど導入されているソフトウェアの一つだった。フロッピーディスクで運用していた方も、どこかのディスクには所有していたはずだ。雑誌の付録に5インチフロッピーディスクが提供されていたが、ほぼ全てのソフトがLHAにより圧縮されていた。そのためLHAも必ず付属していたものだった。
ちなみに官公庁の入札等で指定があったため、企業のPCにも導入されていた。
MS-DOSの時代はコマンドラインで圧縮解凍をするのだが、知っていて当たり前の様な扱いだった。そのため雑誌付録のソフトの解凍方法などは、さらっとは記載してあるものの細かい説明などは無かった。その位普及していた。
とはいえ、パワーユーザーでもいちいち圧縮解凍コマンドを打つのは面倒なので、ファイラーと呼ばれるソフトウェアを使用した。例えばファイル管理ソフトのFDは、当該ファイルを選択してUキーか[F10]キーで解凍が一発でできたので、こちらを利用していた人の方が多いだろう。当時はとにかくディスク容量が少なかったため圧縮解凍は今よりも多かった。
Windows95の頃になると、LHAで圧縮された「.LZH」の拡張子をみて戸惑う人が続出した。DOSの時代を知っている方に取っては何でも無いことだったが、初心者の方にしてみればダブルクリックしても開けない謎のファイルなのである。
そのためインターネット上には解凍の仕方を説明したホームページがタケノコのように現れた。「Lhasa」あたりのインストール方法や使用方法の説明が多かっただろうか?
Windows95もWindows98も圧縮解凍のソフトは付属せず、Windows98 Plus!にやっとzip機能が付属している程度だった。
電子メールが普及し始めファイル圧縮して送ることが増えてきたが、zipでもlzhでも圧縮ソフトを入れる必要があったため、1990年代まではLHA形式で圧縮したものを送付するのが一般的だった。
説明が面倒な場合は自己解凍書庫方式の「.EXE」形式で送付されるのも許容されていた。今だととても非常識な扱いだし危険な行為だ。そもそも添付ファイルごと削除されるだろう。
そんな状況で一気に「zip」で決まったのは、広く普及したWindowsXPが標準でzipの圧縮解凍機能を搭載していことだった。zipで送れば面倒な説明はひとまず不要で、企業であれば「そちら担当者に聞いてくれ!」で済ますことができた。
そんな中でも頑なにLHAを使い続ける人がいたため、Microsoftは正規ライセンスを使用している方の特典として「.LZH」ファイルの解凍のみができるツールを用意した。
インストールするとこんなフォルダに変わった。
普通の方はこれで十分だったし、自分もこの頃にはLHAで解凍することはあっても圧縮することは無くなっていた。
2010年6月に「.LZH」ファイルの脆弱性が発見され、技術的に解決できないことから完全に収束する方向となった。Windows10でも2017年10月に配信された「Windows 10 Fall Creators Update」より前まではサポートしていたが、これを境にサポートが無くなり標準での解凍ができなくなった。これで決定的となり現在では「.LZH」のファイルは過去に圧縮されたものを除いて、ほとんど流通していない。
サポートされなくなって時間が経ったので、おそらく今の方は「.LZH」ファイルを見ても何のファイルか分からないだろう。ただ日本のコンピューターの歴史上、大変重要なソフトウェアだったのは間違いない。
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