はじめてのコンピュータ PC-1245

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このコンピュータは中学の時に、お小遣いとお年玉を必死に貯めて近所の怪しいディスカウントショップの特売品で買ったものだ。
それから大学卒業までの数年間、愛用していた思い出深いコンピュータだ。

小学校の頃、学研の科学だったかの教育雑誌でLS愛ちゃんなるマンガがあった。
徐々に普及を始めていたパソコンについて紹介するもので、当時流行っていた「BASIC」と呼ばれる言語の紹介なんかをしていた。
子供ながらに、将来はパソコンとやらを手に入れるんだ!と夢を持っていたものである。

当時のパソコンは「パソコンが使える=BASICのプログラムが組める」と同義だった。
パソコンの電源を入れると、まずBASICのプログラムが組める環境が立ち上がるのが普通だった。何もない分、起動はめちゃくちゃ速い。
今みたいにWindowsのスタートボタンなんぞあるわけも無く、黒い画面に英文が表示され、入力を待っているだけだ。
そこからどのようにすれば良いかは、マニュアルを熟読しないと全くダメだった。
まだ外部記憶装置と言えばカセットテープの時代で、しかも高価でアプリを導入するという概念もなかったし、雑誌や書籍に記載されているBASICを転記してプログラムするのが当たり前な時代だった。
そして個人ユーザなら電源が切れたらプログラムが無くなるような運用も普通だった。当時MSXという規格のパソコンは、ROMカセットを差し込むとプログラムが自動起動するような仕組みはあった。ファミコンと同じだ。ただほぼゲームだけなのでパソコンが使えるという意味とは違った。
かなり不親切な環境だったので、大枚をはたいて本格的なパソコンを買ったはいいけど、プログラムが全く理解ができずにそのままお蔵入りとなった人も結構いたようだ。

そんななか関数電卓とパソコンのちょうど中間あたりに「ポケコン」というジャンルができた。手軽に持ち運べ、安価でかつBASICが使えた。
BASIC入門機としてぴったりで、シャープやカシオが競って発売していたのを記憶している。
ポケコンはボタン電池で動いており、電池が切れるまではプログラムも消えないといった特徴もあった。
しかも当時で定価17,800円だったので、パソコンに興味がある人に普及していたと思う。

このポケコンはシャープ製のPC-1245という機種で、スペックはオリジナルCPU クロック周波数 576KHz、システムROM 24KB、システムエリア0.5KB、データ専用エリア0.2KB、プログラム兼データエリア1.5KBの合計RAM2.2KBというもの。ギガでもメガでも無くキロという単位で、ROMよりRAMがかなり少ないという今では見られない仕様だ。
16桁の液晶表示で、英大文字のみと数字といくつかの記号だけが使えた。
プログラムが組める人なら分かると思うが変数名がA~Zのたった26個しか使えず、A$と書くと文字列も扱えたが7文字までと貧弱なメモリー環境だった。もちろん拡張することも可能だが、その分1.5KBしかないプログラム領域が減る仕様だったのでメモリーを気にしながらプログラムを書く必要があった。液晶の右脇に残メモリを見る命令が記載されている程である。
別売オプションでマイクロカセットテープにプログラムを保存することもできたが、メモリーが少ない分、逆に紙に書くのもさほど苦ではなかったし、頭で記憶できていたレベルだった。
関数電卓としては完璧で三角関数や常用対数なんかも使えた。しかも括弧付きの計算もできたので大変便利だった。

貧弱なスペックとはいえBASICを初めて使う人には必要十分で、ある程度理解できればワンタッチで命令が入れられる親切設計だった。
たとえば[SHIFT]+Zで「PRINT」という命令がショートカットとして一度に書き込めるようになっていた。
しかも慣れてくるとこの機能は使わず代わりに「P.」と入力することもできた。自動補完され「PRINT」と書き換わるようになっていて、タイプミスがいくらか減らせるようになっていた。キーボードの上に記載のあるショートカットの命令さえ覚えれば、十分プログラミングができた。
プログラムの「いろは」を勉強できたのは、このポケコンのおかげだ。

十分にBASICを理解した頃、高校の数学で電卓を持ち込んで良いというテストがあった。
電卓が無いと計算が大変という理由だったのだが、学校の先生に半分冗談でこのポケコンも持ち込んで大丈夫?と聞いたら、なんと「大して変わらないからOK」という返事だった。
当然持ち込んだ。

確かに複雑で面倒な計算だったので、BASICでテスト対策のプログラムを何本も組んだ。
速度よりもメモリの節約が大事で、余った領域にカンニング用の数学の公式も入れた。
しかもいきなり答えだけ書くと怪しいので、計算途中の結果を表示する機能まで加えた。余ったメモリはゼロだ。
結果、平均が40点位の所をぶっちぎりで90点後半を取ったのだった。100点じゃないのは、最後の最後で転記ミスをしたからである。
元々数学は得意分野だったので怪しまれなかったが、勉強とは別な力をかなり入れたテストだった。

おそらく先生は既に旅立っているだろう。もう時効だ。
おかげさまでコンピュータは、十分飯の種になっている。

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